お題一覧

第零夜 自分

「君、知らない顔ね」

 天井まで堆く積まれた書籍と薄暗い店内の香りに怯えながらカウンターまでたどり着くと、真っ赤なカクテルに口を付ける女性に声をかけられる。カクテルと同じ真っ赤なサマードレスから覗く腕は細く日によく焼けていた。歳はそんなに変わらないはずなのにとても大人に見える。

「初めてここに来たんです。不思議な物語が聞けると聞いて」

 そう、と女性は値踏みするように僕の脚先から脳天まで眺めた。こんな場所に何を着ていけばいいのか分からず、就活用に買った真っ黒な吊るしのスーツで来てしまったが、彼女はそれを安っぽく思っただろうか。仄暗い店内では彼女の表情は見えないが、双眸だけは潤んだように輝いてた。

「私はアヤカ、魔法使いの孫で、娘はヴァンパイアに感染して家を出たわ」

 物語の中でしか聞いたことのないワードなのに、アヤカさんは当然とばかりに自己紹介をする。魔法使いがこの世にいるのかは知らないし、娘がいるような歳にも見えない。

 アヤカさんは口角を上げて歯を見せると、悪戯っぽく君は? と問う。しかし僕が言葉を発する前に、アヤカさんは僕の唇を指で塞いだ。

「このバーでは《嘘》しか言ってはいけないわ」

「嘘?」

「そう、楽しい嘘をついてごらんなさい。それが物語の始まりだから」

2016.08.16 0:00~
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第一夜 故郷

 バーカウンターで各々カクテルを受け取ると、樫の一枚板のテーブルを囲んだ。僕も皆がそうするようにそっとシャーリーテンプルをテーブルに置く。

 アヤカさんはテーブルにはつかず、カウンターで古書を広げて僕らの話をバックグラウンドで聴くつもりらしい。

「君はどこから来たんだい?」

 真向かいに座っている白い髪を結えた老人が、目尻の皺を深めて問う。家の住所を思い浮かべたが、もう《遊び》が始まっているのだと僕は気付いた。机を囲んだ語り部たちが、好奇心に目を光らせ、餓えた獣のように物語を欲しているのを感じるのだ。

「私は、君の《嘘》に興味がある。さあ、語ってはくれないか? どこで生まれ、どこで育ち、どんな幼少期を過ごしたのか」

 語り部たちは獣だ。そう僕は知って、語り始めた。僕の偽りの生まれ故郷のことを。


2016.09.01 22:00~24.00 
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第二夜 母

 僕は再びこの酒場に足を踏み入れた。今日は太めのチノパンに、白地に細い紺のボーダーのTシャツ、挿し色にショッキングピンクの薄手のシャツを腰に巻き付けている。まるで大学生の彼女とデートに行くような服だと僕は笑ったが、会いたい人に会うにはちょうどいいのかもしれない。

 店の中には既に多くの人が集まっていた。各々語らっているが、それが全て《嘘》なのだと僕はもう知っていた。

「あら、今日は学校の帰り?」

 アヤカさんはジントニックを片手に数年前の直木賞作品を開いていた。この店にある本の中では比較的新しいものだ。

「今日はデートをしていたんです」

 へぇ、とアヤカさんは口角をあげて、真っ赤なルージュを光らせた。

「誰とのデートだったの?」

 貴女と、という言葉を飲み込んで、僕は身近な女性の顔を思い浮かべた。

「母とデートしてたんです」

「どんなお母様なのかしら」

 僕は物語を作る快楽を知ってしまった。今日も語る。嘘の母を。

2016.09.08 22:00~24.00 
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第三夜 花

 樫の一枚板のテーブルの上に空の花瓶があった。

「アヤカさん、あれは何ですか?」

 カウンターで見つけた彼女に胸を弾ませて尋ねる。アヤカさんは期待するように微笑むと、顎で花瓶の先に座る男を指した。あの男は昨日も、その前の日も居た気がするし、いなかった気もする。

「あの人の十八番よ」

 男は若くもなく老いてもいない。丁度男の盛りといったほどの風格があった。男はひとつ手を叩くと「やあやあ諸君」と声高々に語り始める。

「この花瓶に生けられた花はどんな色をしているかね? どんな香りがするかね? 君にとってこの花はどんな物語をもっているのかね?」

 空白の花瓶に生けられた花に物語が注がれる。僕にはどんな花に見えるだろうか。

http://togetter.com/li/1025072

2016.09.15 22:00~24.00 
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第四夜 自慢

「そういえば、君の自慢を聞きたいなぁ」

 今日のアヤカさんは珍しく酔っているようだ。目元が潤んで少しだけ赤い。

「アヤカさん、飲みすぎじゃないですか?」

「あら、女が飲みすぎているときは大体失恋したときなのよ」

 えっ、と声をあげると、アヤカさんは「勿論嘘よ」と付け足した。

「嘘」というのが「嘘」なのか。それとも「本当」に「嘘」なのか。そんなパラドクスに惑わされる僕は、前者であることを願ってしまった。彼女の癒しになれるのなら、僕は喜んで嘘を吐こう。

「僕の自慢ですか? 目の前の美女とお付き合いしていることですよ。――あっ、勿論嘘ですよ」

 嘘の嘘を僕は語り始めた。自慢って、なんだろう。

2016.09.22 22:00~24.00  お題に沿った小説を書き「第四夜 レーティング(全年齢・R15・R18)『タイトル』URL #嘘つきは物語の始まり」とツイートしてください。

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第五夜 夢

「僕には夢があります」

 僕は眠ってしまったアヤカさんに話しかけた。いつものアヤカさんなら「君から話しかけるなんて珍しいわね」なんて笑ってくれるだろう。

「でもここでは嘘しか言えません。だから、嘘だと思って聞いてください」

 僕はアヤカさんの耳元に一言置いて、彼女を起こした。

「アヤカさん、そろそろ終電ですよ」

 アヤカさんは大人の女性だ。けれどもお酒には強くないらしい。ここに通って知った「本当」のうちの一つだ。

「あら……ありがとう。私、夢を見ていたわ」

「どんな夢でしたか?」

「あら、今度は私が語る番なのね」

 アヤカさんは白い歯を見せて、濡れた瞳で僕に笑いかけた。

 今日も語り合う、楽しい嘘の物語。

2016.09.29 22:00~24.00 
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